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顧客満足は“偶然”ではつくれない ―― 自社にとってのサービスを、定義し、設計し、再現する

はじめに

店を利用して「心地よかった」と感じることもあれば、「もう行きたくない」と感じることもあります。その差はどこで生まれるのでしょうか。

 

料理や接客、価格、空間。その心地よさは会社が設計したものなのか、たまたま気の利く人に当たった結果なのでしょうか。

 

大切なのは、何によって喜ばれ、どの場面で満足を生み出すのかを明らかにすることです。ここが曖昧なままでは、よい対応が個人の善意に委ねられてしまいます。

 

顧客満足は、偶然の好対応だけで安定して生まれるものではありません。

 

サービスは、まず定義するもの

サービスは形に残らず、受け取り方も人によって変わるため、現場へ任せるだけでは判断が分かれます。

 

「丁寧に接客しよう」

「お客様に喜んでもらおう」

「気持ちのよい店にしよう」

 

どれも大切な言葉ですが、それだけでは、忙しくても守ることや、自社では何をしないのかまで判断できません。

 

サービスを定義するとは、願いを掲げることではなく、何によって喜ばれ、どの場面で価値を感じてもらうのかまで決めることです。すべての場面で最高点を取れない以上、何も選ばなければ、現場はすべてを頑張ることになります。

 

何を大切にするかを決めることは、何に経営資源を使い、何をしないかを決めることでもあります

 

サービス設計は、二層のピラミッドで捉える

お客様は、価格や口コミ、過去の経験などから、「この店なら、これくらいだろう」と期待を抱きます。私は、顧客満足を考えるうえで大切なのは、店側の努力量ではなく、期待と実際の体験との差ではないかと考えています。期待を下回れば不満になり、少し上回れば「また来たい」という感情が生まれやすくなるからです。

 

サービスは、「不満足を防ぐ土台」と「選ばれる理由となる重点サービス」の二層で捉えると整理しやすくなります。

 

第一層は、清潔さや正確さなどの基本です。できていて当然と思われますが、欠ければ強い不満につながります。

 

ただし、お客様が各項目の平均点で店を評価するとは限らず、ほかがよくても、予約ミスや不正確な説明が一つあれば、体験全体が損なわれます。だからこそ、土台は加点ではなく、大きな失点を防ぐ設計として先に整える必要があります。

 

第二層は、接客、品質、早さ、説明の透明性など、自社が特に価値を生み出す部分です。

 

5段階評価で5を目指すなら、単に不満がないだけでなく、期待を超える価値が求められます。とはいえ、過剰に尽くす必要はなく、どの場面で、どの価値によって5を取りにいくのかを定めることが重要なのです。

 

改善会議でも、基本を整える話なのか、選ばれる理由をつくる話なのかを分ければ、優先順位が見えます。

 

※サービス設計のピラミッド構造は、ホテルを例にしてコラム末尾の図解でも確認できます。

 

サービスは、人・モノ・仕組みで再現する

定義したサービスは、一度できただけでは十分ではなく、誰が担当しても一定の質で届けられてこそ、会社のサービスになります。その再現性を支えるのが、人・モノ・仕組みです。

 

人には採用や教育、判断力があり、モノには商品や設備、情報システムがあります。一方、仕組みが担うのは、役割分担、基準、情報共有、改善の流れです。

 

お客様の変化に気づくのは「人」、履歴を確認できるのは「モノ」、次の担当者へ引き継ぐのは「仕組み」です。三つがつながって初めて、よい対応が会社のサービスになります。

 

人だけを鍛えても、必要な情報が届かなければ判断できず、設備も、使い方や引継ぎが決まっていなければ機能しません。仕組みの不足を個人の努力で埋め続けた先には、再現性よりも疲弊が残ります。

 

再現とは、対応を画一化することではなく、守る基準、現場が判断してよい範囲、確認と改善の方法を決めることを指します。

 

また、人がサービスを支える会社では、働き続けられる状態を守らなければなりません。人が疲れれば、判断が荒くなり、以前なら気づけたことにも気づけなくなります。

 

人が壊れれば、サービスも壊れるのです。

 

働きやすさや健康管理は、サービス品質を守るメンテナンスです。この循環は、サービス・プロフィット・チェーンにも示されています。

 

よいサービスとは、続けられるサービスでもあるのです。

 

※サービス・プロフィット・チェーンの流れは、コラム末尾の図解でも確認できます。

 

設計したサービスを、現場で確かめる

サービスの定義や設計は、つくった時点では仮説にすぎません。経営者が価値だと思うことを、お客様も同じように感じるとは限らず、現場に無理が偏れば、たとえ喜ばれても長続きしないでしょう。

 

だからこそ、顧客側と現場側の両方から確かめます。

 

お客様は、意図した場面で価値を感じているか。

担当者によって、サービスの質に差が出ていないか。

現場に、無理や手戻りが生じていないか。

 

再来店率やクレームなどの数字に加え、お客様の一言や、スタッフの違和感も重要な情報になります。

 

顧客満足が高くても、現場の無理が増えているなら、それは成功ではなく、将来のサービス品質を先に使っている状態と見るべきでしょう。

 

最初から会社全体を変える必要はありません。まずは一つの顧客接点を選び、届けたい価値と確認方法を決めて試してみる。

 

設計し、試し、確かめ、修正する。

この小さな循環によって、自社らしいサービスは磨かれていきます。

 

経営会議で確認したい五つの問い

ここまでの内容を自社へ持ち帰るために、五つの問いを置いてみたいと思います。

 

1.私たちは、何によってお客様に喜ばれたいのか。

2.絶対に不満を生じさせてはいけないことは何か。

3.どの顧客接点で、自社らしい価値を届けるのか。

4.それを支える人・モノ・仕組みに、何が不足しているのか。

5.価値が届き、無理なく再現できていることを、何によって確認するのか。

 

五つすべてに立派な答えを用意する必要はなく、むしろ、経営者と現場で答えが分かれるところに、自社の課題が隠れています。何をサービスと考えるかが違えば、優先する行動も、時間や費用の使い方も変わるからです。

 

その違いを、誰かの理解不足や意識の低さだけで片づけるべきではありません。会社として、何を大切にするのかを言葉にし、共有してこなかった可能性もあります。

 

サービスのばらつきは、現場の意識よりも、経営の未定義から生まれていることがあります。

 

おわりに――サービスは、現場の働きかけであり、経営の設計である

サービスという言葉から、気の利く人や、笑顔のすてきなスタッフを思い浮かべる方も多いでしょう。

 

しかし、その人が休んだだけで質が下がるなら、それは会社のサービスではなく、その人個人のサービスにとどまっています。

 

現場の善意を否定するのではなく、その善意を偶然で終わらせず、誰か一人に背負わせないために、会社の仕組みへ変えていくのです。

 

何によって喜ばれるのかを定め、人・モノ・仕組みで支え、顧客の反応を確かめながら磨いていく。そこまでが、経営におけるサービス設計ではないでしょうか。

 

顧客満足を、誰かの偶然の好対応に委ねない。

 

このコラムが、皆さまの会社で「私たちにとってのサービスとは何か」を語り合うきっかけになれば幸いです。

 

青木 永一

 

 

図解1:サービス設計のピラミッド構造

 

 図解2:サービス・プロフィット・チェーン(SPC)の基本構造

 

 

著者プロフィール

青木 永一|ベルロジック株式会社 代表取締役

経営学修士(MBA)。事業者向け金融の実務経験をもとに、
中小企業の経営改善、事業再生、管理会計導入、組織づくりを支援。
財務・法務の視点を活かし、経営者の意思決定を支える。