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管理会計は、数字の顔をした、経営と現場をつなぐコミュニケーションツールである

はじめに

管理会計という言葉に、どのくらい馴染みがあるでしょうか。

 

管理会計と一口に言っても、損益分岐点、KPI、BSC、ABC分析など、その内容は多岐にわたります。それぞれが有効な道具であることは間違いありません。

 

ただ、最初に考えておきたいのは、一つひとつの手法をどう使うかではなく、管理会計を中小企業の経営にどう位置づけるのかという点にあります。

 

道具は、目的があって初めて意味を持ちます。会社は何を目指しているのか。そのために、どの課題を見ていく必要があるのか。

 

今回は、管理会計を自社で活かすための土台となる考え方に焦点を当てます。

 

それぞれの道具については、今後、私が現場で見てきたことも踏まえながら、できるだけ実務に引き寄せてお伝えしていく予定です。

 

決算書だけでは、次の一手を決めきれない

決算書の確認は、会社を経営するうえで欠かせない作業です。売上、利益、資金の状況を見ずに経営を続けることは、現実的ではないでしょう。

 

ただ、決算書だけを見ていても、少し見えにくいものがあります。

 

たとえば、今取り組んでいる施策は本当に効いているのか。このまま続けたほうがよいのか、それとも早めに手を打ち直したほうがよいのか。経営者が日々向き合っているのは、過去の結果だけではありません。むしろ、「これからどう動くか」という判断のはずです。

 

ここで、管理会計という考え方が必要になってきます。

 

財務会計は、日々の取引を会計ルールに沿って記録し、決算書として社外に説明できる形へ整える会計です。

 

管理会計は、それとは少し役割が異なります。会社が目指す目的や目標に対して、今どこまで進んでいるのか、打ち手が効いているのか、どこにズレが出ているのかを社内で測り、次の判断につなげるための会計です。

 

つまり管理会計は、会社が目的地へ向かうために、現在地と進み具合を確かめるナビゲーションのような役割を持っています。

 

目的地があり、現在地があり、進む道があります。途中で渋滞もあれば、道を間違えることもある。そこで必要になるのは、勘だけに頼らず、今どこにいて、このまま進んでよいのかを判断できる数字です。

 

税理士が整える数字と、経営者が使う数字

中小企業では、「数字のことは税理士に任せているから大丈夫」と考えている経営者は少なくありません。もちろん、税務申告や決算書作成は会社にとって欠かせない仕事であり、その専門性はとても重要です。

 

ただ、税理士が主に担っているのは、前章で触れた財務会計や税務の領域です。過去の取引を整理し、申告や決算に正しく反映することが中心になります。経営支援に深く踏み込む税理士もいますが、私の限られた経験で言えば、管理会計の設計や運用まで深く踏み込んでいる方は、決して多くありませんでした。

 

日々の業務の中心が税務申告や決算書作成にあり、税務上問題が起きにくい整理に助言の重心が置かれやすい事情もあります。

 

それ自体は自然なことですが、管理会計で求められるのは、経営課題をどう捉え、その課題に対する打ち手をどの数字で見ていくか、さらに現場の行動にどうつなげるかという別の視点です。

 

だからこそ、管理会計を「税理士に任せるもの」と考えるより、経営者自身が会社の管理システムとして捉える必要があります。ここを取り違えると、決算書はできているのに、経営判断に使える数字が社内に育たないということが起こります。

 

道具を選ぶ前に、解きたい課題を決める

管理会計を考えるとき、先に捉えておくべきは、自社の課題です。

 

自社が今、何に困っていて、それはなぜ起きているのか。どうなれば、ひとまず解決したと言えるのか。ここが曖昧なままでは、どの数字を見るべきかも定まりません。

 

たとえば、売上が伸びないという課題でも、新規客が足りないのか、客単価が低いのか、リピートが弱いのかによって、見るべき数字は変わります。利益率が低い場合も、原因が原価にあるのか、値引きにあるのか、現場の稼働にあるのかで、確認すべき数字は別物になります。

 

つまり、「何を導入するか」よりも前に、「何を判断したいのか」を明らかにする必要があります。ここを飛ばしてしまうと、資料や指標は整っているのに、肝心の経営判断にはつながらないという状態になりかねません。

 

会社は、課題に対していくつかの選択肢を考え、その中から一つを選び、実行します。そのあと一定の時間が経過したときに、予測に対して結果がどうだったのかを確認することになります。

 

続けるのか、変えるのか、止めるのか。

 

次の判断に進むために改善策を検討し、その改善策が効いているのかを数字で測る。そこに、管理会計の実務上の意味があります。

 

管理会計は、現場で使われてはじめて意味を持つ

中小企業においては、書籍に載っている形をそのまま導入しても、うまく続かないことが少なくありません。

 

会社の規模、現場の人数、入力できる情報、会議の頻度、社員の理解度によって、使いやすい形は変わります。立派な表を作っても、誰も見なければ意味は薄く、入力が複雑すぎれば現場の負担だけが増えていきます。

 

難しいのは、仕組みを作ることよりも、それを現場で使い続けられる形にすることです。

 

だからこそ、管理会計は段階を踏んで育てる必要があります。最初から完璧な仕組みを作ろうとするより、まずは会社が今いちばん解決したい課題に絞る。その課題を見るために必要な数字を少なく始め、経営会議や現場の振り返りで実際に使いながら、少しずつ整えていくほうが現実的です。

 

また、管理会計が現場で使われるためには、当事者たちの感情も避けて通れません。

 

営業、事務、製造、サービス提供の現場。それぞれの部署には事情があり、そこにいる人の数だけ受け止め方があります。数字で見えるようにすることは大切ですが、その数字が評価のためだけに使われるものだと受け止められれば、現場は協力しにくくなります。

 

だからこそ、導入時には、何を見るための数字なのか、その数字をもとにどのような話し合いをするのかまで共有しておきたいところです。経営者や幹部が「なぜそうなったのか」「次に何を変えるのか」と問いを立てられる状態まで整えて初めて、管理会計は現場で使われる仕組みに近づいていきます。

 

その数字は、会社の中にどんな会話を生んでいるか

管理会計は、よもや誰かを責める口実をつくるためのものではありません。数字が悪かったからどこかの部署を責める、目標に届かなかったから担当者を追い込む。そうした使い方をすれば、管理会計は経営を前に進める仕組みではなく、現場を萎縮させる材料になってしまいます。

 

ただし、数字に向き合う以上、それぞれの部署には当然、一定の責任が伴います。ここでいう責任とは、結果の良し悪しだけを問うものではなく、数字をもとに状況を説明し、次の行動を考えることです。

 

数字は、それだけでは無機質です。けれども、その数字をもとに会社の中で問いが生まれ、説明が交わされ、次の行動が決まっていくなら、それは血の通ったコミュニケーションになります。

 

経営者が何を目指しているのか。その目的に対して、いま会社の中で何が起きているのか。数字を通じてその状況を共有できるようになると、管理会計が本来の役割として機能しはじめます。

 

そうした問いを、経営者だけで抱え込まず、幹部や現場と共有するために数字を使う。私は、管理会計をそのように捉えています。

 

そう考えると、普段見ている数字の意味も少し変わってきます。

 

いま社内で共有されている数字は、経営者の考えと現場の行動をつなぐ役割を果たしているでしょうか。

 

その数字を見たあと、会社の中にどのような会話が生まれているか。

 

そこまで含めて仕組みを整えていくことで、管理会計は単なる数字の管理ではなく、経営と現場をつなぐコミュニケーションとして機能し始めるはずです。

 

青木 永一

 

著者プロフィール

青木 永一|ベルロジック株式会社 代表取締役

経営学修士(MBA)。事業者向け金融の実務経験をもとに、
中小企業の経営改善、事業再生、管理会計導入、組織づくりを支援。
財務・法務の視点を活かし、経営者の意思決定を支える。