ブームに乗る前に、撤退基準を決めていますか
事業に訪れる波
大学院時代の同期生たちと、私はもう何年も毎週日曜の朝に朝活を続けています。
先日、その場で友人がキャンプギア業界の盛衰について発表してくれました。コロナ禍で大きく伸びた市場が、その後の沈静化とともに苦しくなっていった話です。
キャンパーにはよく知られたスノーピークも、その反動と無関係ではいられませんでした。在庫調整の負担も重く、2023年12月期の売上高は前年比16.4%減となり、大幅な減益となりました。
この話を受けて思い出したのは、少し前まで街のあちこちで見かけたタピオカ、高級食パン、唐揚げ専門店のことです。
大企業の遠い話ではありません。
身近な商圏で、中小の店が一気に増え、そして一気に減っていった。そういう変化もまた、同じ構造を持っているように思います。
そして、事業を長く続けていると、どこかのタイミングでブームとも言える需要の膨らみに直面することがあります。
そうした局面で、自社が対応できることがあるなら、その需要を取りに行くことは、経営として十分に考えられる打ち手です。既存事業の延長でも、新規事業としてでも、それ自体は間違いではありません。
ここで言いたいのは、ブームに対応した企業を結果から責めることではありません。問いたいのは、その局面に向き合う前に、何を先に決めておくべきかです。
結果論では残らない実務の学び
終わった後なら、誰もが何とでも言えます。
ただ、それだけでは実務の学びになりません。
経営は不完全な情報の中で行うものです。需要がどこまで続くのか、一時的なのか、定着するのか。その場で完全に見抜ける人はいません。
現場では売上が伸び、空気は強気になり、増産や採用の必要性が上がってくる。そうした状況で慎重な前提を置くのは簡単ではありません。
本当に問いたいのは、結果の善し悪しではなく、その時点でどこまで設計できていたかです。
経営は、未来を当てる競技ではなく、外したときの傷をどう抑えるかの設計でもあります。
乗ると決めたときに、出口まで含めて決められていたか。そこに経営の質が出ます。
会社を重くする広げ方
目の前の利益が取れるなら、取りに行くべき場面はあります。
ただ、その利益を取るためには、先行投資が要り、財務に直結する重さも抱えます。
そこで見るべきなのは、利益の大きさだけではありません。その判断が、後の経営に足かせを残さないかです。
目の前の利益を取りに行くことで、かえって会社の生存確率を下げることになるなら、本末転倒ではないでしょうか。
問題は、需要を取りに行くことではなく、その需要に対して、どこまでを流動的に構え、どこからを固定してしまうかです。
分かりやすいのは在庫です。
需要を強気に見積もれば、仕入れは増えます。熱が冷めたとき、その在庫は過去の判断として倉庫に積み上がり、保管費を生み、値引きや処分で利益を削ります。
在庫は単なる商品ではなく、以前の意思決定が形になったものです。
変化は、まず在庫回転率や損益分岐点の動きに表れやすいはずです。在庫回転が落ち始めていれば、需要の熱は変わり始めています。
人を増やし、倉庫を広げ、販売体制を厚くすれば、平時に必要な売上水準は押し上げられます。その結果、損益分岐点は気づかぬうちに上がっていきます。
人員増は簡単には戻せず、設備投資も借入も後から効いてきます。そこに既存事業の先行投資まで重なると、資金繰りは一気に苦しくなります。
需要が高まっているなら、それを取りに行くのは自然です。
ただ、こうした追い風が永続することはむしろ稀です。だからこそ、勢いのある局面ほど、どこかで反動が来るかもしれないという怖れを持っておく必要があります。その怖れが、市況を永続前提で捉えて設備投資や借入を膨らませることへの戒めになるのではないでしょうか。
ブームをつくる需要の正体
一過性のブームかどうかを、その場で正確に見抜くことはできません。
ただ、示唆になるものはあります。
競合企業の動きから見えやすいのは、市場の過熱度です。
参入が増えているのか、価格競争が始まっているのか、供給過剰の兆しがあるのか。これは重要です。
ただ、需要の持続性を見るうえで、より重要なのは顧客の動きです。
市場参加者に初心者が多いのか。
継続利用を前提とした顧客なのか。
必要性で買っているのか。
話題性で買っているのか。
競合を見ると売り手の反応が見えますが、顧客を見ると市場の土台が見えます。
売上だけを見ていると、「伸びている」という現象に引っ張られます。しかし、経営として見たいのは、売れた事実より、誰がどんな動機で市場に入ってきているのかです。
コア顧客が厚くなっているのか、それとも一時的な流入層が勢いをつくっているのか。
この違いは大きいはずです。
だからこそ、見極める力だけに頼るのではなく、外したときに傷を深くしない設計が要ります。
新規客比率、リピート率、粗利率、月次の資金繰りなども含めて、自社ではどこに危険信号が出やすいのかを先に持っておくことです。
正解の指標をひとつ探すことより、市況の異変がどこに出やすいのかを仮説として持っておくほうが、実務では役に立ちます。
参入前に問われる設計
実は私自身、コロナ以前にキャンプ用品を一式そろえたことがあります。
面白そうだ、皆で遊ぶにはちょうどよさそうだ、そんな気持ちで入ったのですが、数回使ったところで、自分の特性にはあまり合っていないことが分かりました。
結局、用品はすべて売り払うことになりました。
振り返れば、少し浮足立った意思決定だったのだと思います。本来なら、最初から買いそろえるのではなく、まずはレンタルのような軽い入口から始めるべきでした。
経営でも同じです。
自社に本当に合うのか。
需要が続くのか。
まだ見えない段階で、最初から重い持ち方をしてしまう。
後から引けるつもりでも、持ってしまった在庫や増やした固定費は残ります。
だからこそ、入口設計が大事になります。
どの条件なら拡大するのか。
どの条件なら止めるのか。
どこまで在庫を持つのか。
どの水準まで損益分岐点が上がったら危険とみなすのか。
どんな変化が出たら仕入れを絞るのか。
どこで採用を止めるのか。
どこで縮小や撤退を検討するのか。
まずは、見る指標と止まる条件を一枚に書いておくことです。それだけでも、経営の傷み方は変わります。
おわりに
事業を続けていれば、どこかでブームとも言える需要の膨らみに直面します。
ただ、経営の差は、そこに乗るかどうかではなく、乗る前に、どうなれば降りるのかという撤退基準を持っているかに出ます。
そして同時に問われるのは、何を自ら持ち、何を持たないのか、その重さでブームの終わりに耐えられるかです。
ウォーレン・バフェットの有名な言葉に、
「投資の第1ルールは、絶対に損をしないこと。第2ルールは、第1ルールを忘れないこと」というものがあります。
投資の言葉ではありますが、経営にも通じるところがあるのではないでしょうか。
大きく取ることより先に、残り続けることです。
熱が高い局面ほど、そのことを忘れないようにしたいものです。
青木 永一
